ひろゆきは活動家に強く、活動家は専門家に強く、専門家はひろゆきに強い…… そんな三すくみが成立するよねというネットの小話を見かけ、ちょっと面白いなと思い考察してみる。
まずこの関係をそのまま素朴に捉えて終わらすのではなく、議論空間の力学として切り取った観察仮説として見て、分解してみるところから始めてみよう。
専門家はなぜ活動家に弱く見えるのか。
専門家は通常、エビデンスの適用範囲や前提条件を厳密に限定しようとする。この条件下では、とかこの統計では、といった但し書きが多い。一方、活動家は道徳的フレーミングを使う。例えば、それは不正義だ、被害者がいる、など。
人間の認知はデータよりも物語や怒りに強く反応する。だから公共の場では、専門家が慎重であるほどなんだか煮え切らないなという印象を与えやすい。これは専門家が劣るのではなく、モードが違うという話だと思う。
次に、活動家はなぜひろゆき的存在に弱く見えるのか。
議題に上がっているペルソナを何て呼べばいいんだろう。冷笑屋?論点破壊型コメンテーター?…… 一応ここでは、懐疑的ディベーターとでも仮に呼ぼうと思う。
懐疑的ディベーターは相手の前提を一つずつ崩す、揚げ足を取る、定義を問い直す。いわゆる「それってあなたの感想ですよね」のスタイル。活動家の主張は倫理的な熱量に依存することが多いので、形式論理や定義の細部を突かれると脆く見えてしまうのではないか。特にネット空間では、勝敗は説得力よりも印象的な一撃で決まる傾向がある。
最後に、その懐疑的ディベーターはなぜ専門家に弱いのか。
専門家は体系的知識を持っている。単発の反論ではなく、分野全体の構造から説明できる。定義遊びや部分的な揚げ足取りは、専門家の土俵では通用しにくい。つまり、短期的なレトリック戦では強いものの、長期的な知識戦では分が悪いというわけだ。
この三すくみは真理の階層というよりかは、議論モードの相性の問題と考えると整理しやすそう。
倫理モード、懐疑モード、専門知モード。それぞれ強い場面が違ってくる。
※ 上記の三すくみは少し補足も必要に思う。
例えば専門家がディベーターに負けるケースも考えられる。ライブ配信やSNSでは、ディベーターが使うギッシュギャロップ(大量の論点を浴びせかけ、相手の返答を封じる手法)や、専門家の小さな言い淀みを無知の証拠として演出するレトリックで、短期的な印象戦において専門家が敗北するケースだってあり得る。
それから、活動家がディベーターを無力化するケース。ロジックそのものを特権性の現れや加害行為として切り捨てることで、ディベーターを議論の土俵に上げず、社会的な排除を行う場合がある。実際、そうした議論に特に強いタイプの政治家と言われて、何人か顔が思い浮かぶかもしれない。
これらの場合、論理的な三すくみは崩壊する。なのであくまで思考実験として面白いかもねという但し書きがつくことにはなる。
あと、上記の別バージョンとして、 賢者 → 一般人 → 愚者 → 賢者 という三すくみも挙げられていた。
これって古典的な定型表現なのかなとも思ったけど、よくよく考えるといくつかの思想の混合にも見える。
ひとつはダニングクルーガー効果。
能力が低い人は自分を過大評価しやすく、高い人ほど自分の限界を知るというやつ。愚者は自信満々 → 賢者は慎重、という図式になる。
もうひとつはソクラテス的無知。
「自分が無知であると知っている者こそ賢い」という逆説。ここでは愚者と賢者が一見似た態度、つまりは単純化された言明を取るが、その内実が全く違うという構造がある。
さらにニーチェ的には、超越した者は大衆から誤解され、愚者と区別がつかないという図も出てくる。賢者と狂人は紙一重という表現も耳馴染みがあると思う。
つまり、循環構造の発想自体は昔からある。ただし、固定された三すくみの定式が古典にそのまま存在するわけではなくて、人間の認知と社会的評価の歪みを寓話的にまとめた現代的ミームと見る、ぐらいがおそらく妥当な線か。
ここで少し視点をずらしてみる。
三すくみという発想は誰が真理に近いかではなく、どの状況で誰が強く見えるかの観察になる。真理は単純な勝敗トーナメントでは決まらない。科学的方法は、活動家の情熱も、ディベーターの疑いも、専門家の知識も、全部を検証可能な仮説に落とし込んでいくプロセスだ。
もしもこの三すくみを発展させるなら、もう一つの役割を入れても面白いかもしれない。例えば編集者やファシリテーター。
熱と懐疑と知識を翻訳し、再構成する存在。今のネット社会ではここが最も不足しているように思う。強いのは、叫ぶ人と、壊す人と、詳しい人。つなぐ人が少ない。
三すくみを真理の地図と見るか、議論の演劇と見るかで、まったく意味が変わってくる。
多分いちばん怖いのは、自分がどのモードで話しているかを自覚しないこと。そこから議論はすぐ宗教になってしまうから。